タワーが傾いたり沈んだりしないのは、地中深くの硬い地盤で踏ん張る「杭」があるからです。決して人の目に触れることのない地中深さ「+(プラス)50m」へと向かう工事には、世界一のタワーを支える特殊な「杭」の技術があります。ここではその技術をご紹介します。
東京スカイツリーは、高さに対して地盤に立つ足元の幅が小さく、地震や風でタワーが揺れる度に、塔体の3本の足元には上下や水平方向に大きな力がかかります。これら2つの力に耐えるため、パワフルでかつスリムな「杭」の技術が採用されました。
3本の足元には、上下方向の力に耐える突起の付いた杭「ナックル・ウォール」があり、その間を水平方向の力に耐える巨大な壁「地中連続壁杭」がつないでいます。つまり、足元全体が3本足と3枚の壁による巨大な三角形で構成され、地震や風による揺れに耐える特別な基礎杭となっています。
上下方向の力に耐えるために2つの工夫があります。一つは「ナックル(突起)が付いていること」、そしてもう一つは「壁杭の中に鉄骨が埋め込まれていること」です。
東京スカイツリーの3本の足元にある「ナックル・ウォール」とは、深さ35mから50mの硬い土(支持地盤)に差し込まれた部分にナックル(突起)を付けた「壁状の杭(壁杭)」です。
一本の足の下には、40個のナックルがあり、引き抜こうとする上への力に対し、ナックルが支持地盤に引っかかるようにすることで杭が抜けないようにしています。押し込もうとする下への力に対しても同様に働きます。
ナックル(突起)を付けることで、ナックルのない従来の壁杭に比べ、壁の厚みやコンクリート、掘削する土の量も減り、工期短縮にもつながるスリムでパワフルな杭になります。
東京スカイツリーの基礎である「壁杭」は「ナックル」に加え鉄骨が埋め込まれていることがもう一つの特徴です。
タワーが上に引き抜かれる力は、塔体と一つながりになった鉄骨を通じて、地中深くの「ナックル」に伝達されます。この独自の仕組みによりスリムな「鉄骨鉄筋コンクリート製の杭」が、パワフルにタワーを支えています。
大型の「杭」は設計された形状に合わせて地盤を掘り、そこにコンクリートを流し込んでつくります。土の質と掘削する形により、さまざまな建設機械を使い分けています。
一枚の地中の巨大な壁は、ユニットに分割してつくります
タワーが水平方向の揺れの力に耐えるため、「地中連続壁杭」は、一体化した大きな一枚の壁でなくてはなりません。
幅約70mの巨大な壁を一枚の壁として一気につくるには、掘削した穴の崩壊やコンクリートの量など、物理的にも工程的にも現実的ではありません。そこで12枚のユニットに分割してつくります。
ユニットを波形鉄板「CWSジョイント」でつないで力を伝えます
分割されたユニットが一体となり、壁全体に力を伝達するには、ユニットのつなぎ目ががっちりと組まれる必要があります。そこで、各ユニットのつなぎ目には、波形の鉄板がまたがる「CWSジョイント」が使用されています。
各ユニットは片側から一つずつ順番につくります。
「CWSジョイント工法」では各ユニットをつなぐ波形鋼板はそれぞれのユニットに半分ずつ埋め込みます。
後から流し込むコンクリートで埋まる部分が、先に流し込むコンクリートで埋まらないように工夫しています。
「基礎杭」は、地中に隠れた土台です。建物の形状や建設地の地盤の条件などによってさまざまな形状や工法があります。その中で、一番しっかりとした基礎杭が地中連続壁工法を使ったもので、技術の内容が品質や工程を大きく左右します。
大林組では、1960年から「地中連続壁工法」の研究開発をはじめ、長期にわたり、自社による設計・施工体制、掘削機械にこだわり、独自の技術を積み重ねてきました。その結果、現在ではわが国最多の施工実績を誇っています。
東京スカイツリーの「基礎」は、この「地中連続壁工法」の豊富なバリエーションの中から、最新技術の「ナックル・ウォール」と独自技術の「CWSジョイント」、「SRC地中連続壁」を組み合わせてできています。この一つでも欠ければ東京スカイツリーに最適な基礎は成り立ちません。
大林組が長年磨き続けてきた技術の結集が、見えない地中「+50m」から世界一の高さを支えています。
協力 日本科学未来館
東京スカイツリーのつくり方大公開(上級編)
タワーを支える杭をつくる
タワーの足元をつくる
タワーの鉄骨を積み上げる 未知の高さに吊り上げる
特殊な構造を積み上げる
人や材料を効率よく上げる
高精度に積み上げる
上空の気象条件に備える
アンテナ用鉄塔を引き上げる
タワーの心柱をつくる |