東京スカイツリーの建設工事を安全に、工期内に完成させるうえで、最も影響が大きくかつ未知なることは、上空の気象などの自然現象です。
今回は、毎日の作業に関わる建設現場上空の「気象予報システム」と自然災害に関わる地震や雷、風の「警報システム」、そして自然災害の際の「行動計画」についてご紹介します。
気象庁は東京上空の天気予報を行っておりません。風を例にとると、特に東京スカイツリーの高さが含まれる高度200~300mから1kmくらいの間は、分からない点が最も多い高さの範囲です。
例えば、大気は高くなるにつれて地表の摩擦などの影響を受けなくなることから、高い所ほど風は強くなると考えられていますが、実際に観測してみると、
地上では日中に比べ夜間は風が弱まることが多いが、地上数百メートル以上では逆に夜間に風が強まることがある。
地上でほとんど無風のときでも高さ600m付近では強風が吹いている。
というような事例も見られ、高さによる風の違いは簡単でないことが分かりました。
右の表はある台風通過時の観測値です。時間経過により高さ500~600mで最も風速が高くなることがあるなど、単純な予報ができないことが分かります。
東京スカイツリーの建設は鉄骨工事がメインとなります。鉄骨工事はタワークレーンを使い、鉄骨を積み上げていくことを日々繰り返します。そのため、気象状況の把握は必須です。中でも風は作業の進捗に大きな影響を与えます。
風による影響 例1
クレーン作業は10分間の平均風速が秒速10mを超えると作業ができません。長時間にわたって中断した場合、その日の作業予定が翌日に延びることもあります。その結果、作業ヤードに鉄骨部材などが残り、翌日の搬入予定を変更しなくてはなりません。鉄骨部材は夜間に陸送されるので変更には早めの対応が必要です。
風による影響 例2
ゲイン塔のリフトアップ作業中は風が強くなるにつれて揺れが生じ、垂直精度を確認することが困難になります。おおよそ10日に一度、約10mのリフトアップ作業には半日を要します。その日程の変更は前後のアンテナ取り付け作業などに影響を及ぼします。
このように突然の変更や調整を少しでも減らすことは作業を効率よく進めることにつながります。それには、よりきめ細かな気象情報が求められます。そこで、緻密な気象予報を自ら行いました。
気象庁の基本データをもとに解析を行い、工事場所のピンポイントでの上空の予報を一日2回、12時間ごとに出し、日々の細かな作業調整に活かしています。(下表)
精度の高い予報をもとに鉄骨の作業予定を組んだり、ゲイン塔のリフトアップ実施日を1週間前には確定するなどしました。このように上空の気象予報は円滑な現場運営に寄与しています。
さらに、数値解析による予報の細分化に加え、長期にわたり現地上空の風の様子を観測したデータから、地表付近の風予報と上空の風予報をさらに精度よくマッチングさせるノウハウの確立を図っています。
グラフはその予報値と測定値を風速と風向について比較したものです。
これらから予測精度の高さがうかがえます。
地震や雷、突風は突然発生し、災害や事故を引き起こす要因となります。
未知の高さの東京スカイツリーの工事では、それらの予測につながる情報をモニタリングしながら気象地震監視警報システムを活用し、安全に作業を行い計画を作り実施しています。
地震に対しては、気象庁が発信する緊急地震速報を活用しています。
緊急地震速報を受信すると現場内にはスピーカーによる放送と回転灯による表示で警報が発せられます。また現場事務所内の警報監視PCでは緊急地震速報に連動して震源地、地震の規模などの情報が表示されます。
警報が発せられた場合は以下の行動計画に従い行動します。
雷や風に対しては、気象庁の予報データや現場の観測データをベースに警報システムに活用しています。また、民間の気象観測情報も補足的に利用しています。
警報監視PCに取り込まれた各種気象情報から現場内にスピーカーによる放送と回転灯による表示で警報を発します。
警報は、雷については雷雲の近づき具合や上空の雷雲状況によって、また風については東京スカイツリー頂部の平均風速の増加により レベル1からレベル4(緊急)の4段階で行います。
建設中の雷からの避難
東京スカイツリーは完成後、雷に対しても安全な建物です。しかし、建設途中には危険性が高くなる場合があり、雷が接近した際には速やかな避難が必要です。
クレーンの吊り荷を経由して再放電する可能性がある場合
塔体外周での作業中に、側方から雷の直撃を受ける可能性がある場合
警報発令時の避難場所の周知
そのため工事現場では、避難指示が発令された際の避難場所を右の図のような色分けによって周知し、直ちに避難することで安全を図ってきました。
また、リフトアップ中のゲイン塔の再放電を防ぐため、仮設の導線(通路)で接続するなどの安全対策も行いました。
雷を観測し、警報の信頼性を向上
幸いにも塔体が634mに到達するまでに雷を受けるなどの被害はありませんでした。しかし、安全側に余裕を見過ぎる警報は頻繁に作業を中断してしまうという側面もあります。
そのため、次のように独自の雷観測を行い、その結果を総合的に解析し、警報の信頼性を向上させる取り組みも行っています。
落雷検知装置での観測:
落雷時に発生する電磁波を測定することにより、雷の接近状況を判定します。現場から100km以上離れた地点の雷まで検出することができます。雷雲検知装置での観測:
東京スカイツリー周辺の雲と地面との間の静電気を計測し、危険な雷雲かどうかを判別します。気象庁観測データの詳細分析:
各種の気象庁の観測データを詳細に分析することにより、雷の接近状況とその場所での危険度を判断する材料とします。
下の写真は、警報システムのモニタリングにより記録されたものです。写真の撮影日に公的な落雷記録はありませんが、634mの頂部に落雷しているのが分かります。
建設中に数回落雷がありましたが、警報による塔体内への避難も実施され、作業員に被害はありませんでした。これにより完成後の東京スカイツリーの雷に対する安全性が図らずも実証されました。
このように気象予報システムや地震や雷、風などの警報システム、日頃からの避難行動計画などで、作業する人の安全を守りながら建設を進めてきました。
東京スカイツリーのつくり方大公開(上級編)
タワーを支える杭をつくる
タワーの足元をつくる
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特殊な構造を積み上げる
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上空の気象条件に備える
アンテナ用鉄塔を引き上げる
タワーの心柱をつくる |