アンテナ用の鉄塔、ゲイン塔のリフトアップ工事は、地上で組み上げたゲイン塔をジャッキを使って引き上げる作業です。
リフトアップ作業の最終段階では、ゲイン塔を塔体内部から突き出し、最終高さに設置します。
外に突き出す部分が長くなればなるほど重心の位置は高くなり、ゲイン塔の転倒防止と垂直精度の調整が重要になります。今回は、その仕組みについてご紹介します。
ゲイン塔のリフトアップ工事では2種類のジャッキを使います。上へ上へと引き上げるための「リフトアップジャッキ」と、ゲイン塔が塔体上部に突き出してからの倒れを防ぎ、垂直精度を調整する「転倒防止ジャッキ」です。
リフトアップジャッキは、鉛直方向にゲイン塔を引き上げるための油圧ジャッキです。ゲイン塔は12台のリフトアップジャッキで引き上げます。ジャッキ1台につき直径15.2mmのワイヤー29本で引っ張ります。
リフトアップ作業時にはゲイン塔が傾かないよう鉛直性を保持し、作業のない時にはゲイン塔が動かないようにしっかりと固定するための油圧ジャッキです。
転倒防止ジャッキは、上下に複数段配置しています。 上下の押し引きによって、高さ約240mのゲイン塔の垂直精度の調整を可能にします。 ゲイン塔の柱鉄骨にはわずかな誤差があるため、ジャッキの押し出し長さは0.1ミリ単位で慎重に調整します。
リフトアップ作業において、引き上げを行うリフトアップジャッキは、すべてのジャッキを同時に動かし、同じ高さを保持しながら上昇しなくてはなりません。また、転倒防止ジャッキは、ゲイン塔の傾きや塔体との位置関係を常に監視しながら微妙な押し引きの調整が必要です。
そのため、すべてのジャッキは第1展望台内に設置した指令室で集中制御します。
指令室では、リフトアップ中のゲイン塔のさまざまな情報をモニターや各ジャッキ周りの監視員から収集し、判断しながらジャッキ操作を行います。
ゲイン塔の転倒防止には、最上段のジャッキが重要です。常に押さえている必要があるので、ジャッキを2つつけておき、どちらかが必ず押さえておく仕組みになっています。
ゲイン塔の柱には溶接による継ぎ目(溶接ビード)があります。1cmほど盛り上がっているためリフトアップの際、滑り上がるのに支障をきたします。
そこで下の写真のように上下にジャッキを配置し、常にどちらかのジャッキで押さえるよう工夫しました。
ゲイン塔は下部が広がった形状をしています。柱が斜めになっている部分(テーパー部分)を通過する際には、転倒防止ジャッキで水平に押せる工夫が必要です。
そこで下の写真のようにテーパー部に仮設ジャッキ受けを取り付けました。
また、仮設ジャッキ受けは通過前には下図のようにジャッキを移動し、常に上下どちらかのジャッキで押さえるようにしています。
ゲイン塔のリフトアップは、ゲイン塔と塔体の位置関係や垂直精度を確認しながら、慎重に行っています。リフトアップの微調整は、それぞれのジャッキをコントロールして行います。
ジャッキで調整できる範囲を超える場合は別な対策も行います。例えば、ゲイン塔が引き上げに伴い回転した場合には、右の図のような仮設の回転止めを設置し対応しました。
リフトアップが634mに到達し、塔体との位置関係の微調整も完了した後、ゲイン塔と塔体とを鋼材を挟み溶接で接続します。
接続作業の途中で転倒防止ジャッキは徐々に外されていきます。すべての接続作業が完了すると、リフトアップジャッキとゲイン塔をつないでいたワイヤーを切断します。
ゲイン塔を支えてきたジャッキは、その後取り外され、その役目を終えます。
階段を含めると高さ約240m、重さ約3000tの巨大なゲイン塔をジャッキで引き上げ、常に動きを把握しながら緻密にコントロールすることで、精度よく地上634mの高さに据え付けることを実現しました。
東京スカイツリーのつくり方大公開(上級編)
タワーを支える杭をつくる
タワーの足元をつくる
タワーの鉄骨を積み上げる 未知の高さに吊り上げる
特殊な構造を積み上げる
人や材料を効率よく上げる
高精度に積み上げる
上空の気象条件に備える
アンテナ用鉄塔を引き上げる
タワーの心柱をつくる |