東京スカイツリーには、第2展望台から地上まで避難階段が設置されます。中心部にある心柱(しんばしら)は筒状のコンクリート構造物で、内部は避難用の階段室になっています。今回はその階段の設置方法をご紹介します。
心柱の特徴
心柱は地震時に重量を利用した制振システムとして機能しますが、本来、心柱の鉄筋コンクリート造の筒は階段室の壁の役割を担っており、心柱の中空部には避難階段が設置されます。
避難階段の設置範囲
第2展望台から第1展望台までと、第1展望台から地上まででは階段の設置方法が異なります。
第2展望台から第1展望台までは、ゲイン塔とともに組み立て、ゲイン塔のリフトアップ時に階段を設置しました。
第1展望台から地上までは、階段室の壁になる心柱を先にスリップフォーム工法で構築してから階段を設置します。
避難階段は、塔体や心柱の鉄筋コンクリートの筒などの周りが出来上がった後に設置するので、通常のように階段室の柱や壁となる周りの鉄骨とともにクレーンで積み上げることができません。
下から積み上げようとすると一度第1展望台の上に上げなければならず、非効率です。そこで、リフトアップ工法を採用しました。
未知の高さの構造物を順序よく造る
リフトアップ工法で避難階段を組み立てる高さは350mを超え、これまで日本にある建造物の高さを超えています。東京スカイツリーでは、このような未知の高さの構造物を何回かに分け、急ぐところから順番に造ってきました。避難階段のリフトアップはその締めくくりとなります。
概要は下記のとおりで、それぞれの構造物に応じて最適な工法を選定しました。
避難階段は鉄骨造です。通常の鉄骨造の階段は、階段を支える柱が周囲にあり、最下部から最上部までつながっています。心柱内部の避難階段ではリフトアップ工法での分割取り付けを考慮し、壁から支持することにより、柱が連続しない設計となっています。(下の図参照)
心柱内部の階段リフトアップ工事の組み立てと取り付け手順は下図のとおりです。
材料の搬入から階段ユニットの組み立てまでは、下の図の順番で行います。
心柱内部の最下部で組立てられた階段ユニットは、右の図のように上部に設置された吊り上げ用ジャッキでワイヤーを引き上げることにより、リフトアップします。
吊り上げ用ジャッキは、通常よりも高速(1m/分)で引き上げが可能な油圧式ジャッキを用い、階段ユニットに対して下の図のように4台配置します。
リフトアップ完了後、位置の確認を行い、心柱の壁に階段ユニットを固定します。同時に、隙間部分の安全設備の設置を行って1ユニットの取り付けが完了します。
これを繰り返すことで、階段を下へ下へと伸ばしていきます。
ゲイン塔のリフトアップ工事では上から突き出すために地上で全長を組み立てたものを引き上げましたが、避難階段では分割した階段をリフトアップしてつなげていきます。
これによりリフトアップする重量が大きくならず、能力の小さなジャッキで吊り上げられます。また、取り付けたところから順に仕上げ工事を行うこともできます。
仕上げ工事は二系統の階段を分ける仕切り壁の工事などがあります。仕切り壁などの材料は後から各高さに荷揚げするのは困難なため、階段ユニットに搭載しリフトアップを行いました。
既に構築された心柱の内部に避難階段を設置するにあたり、分割したユニットをリフトアップする最適な工法が選定され、高さ350mを約2ヵ月間という残された期間で安全に施工を行うことができました。
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