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特集 風と向き合う 1

風の仕組みと自然エネルギーの利活用

2015. 06. 11

あしたはあしたの風が吹く。前もって考えてもどうにもならないことの例えとして、風は使われることがあります。しかし、私たちは真っすぐに風と向き合うことで、自然災害から暮らしを守り、自然の恵みを最大限に活かせると考えています。

人が感じる空気の流れ、それが風です。日本では古くから、台風や冬の季節風などの強い風への脅威に備えつつも、夏には窓を大きく開けて風を通して涼を得るなど、風を暮らしに活かしてきました。今回は、誰もが身近な存在である「風」を2回にわたって紹介します。

            

自然現象としての風を知るために、1回目は発生のメカニズム、種類、現象とともに利活用の事例を解説します。

      

1 風を知る

空気の流れ、つまり風ができる頻度と原因からお話ししましょう。

強弱の差はありますが、風はほとんど休むことなく吹いています。年間、どのくらいの強さの風が、どのような割合で吹いているのかを観測した気象データがあります。

東京管区気象台の例では、無風からごく弱い風(風速(※1)毎秒1m未満)は年間3%程度しかなく、残りの97%は常に何らかの風が吹いていることが分かります。中でもそよ風(風速毎秒2~3m程度)が最も多く吹いています。

ではなぜ風は常に吹いているのでしょうか。

東京都千代田区にある気象庁の東京管区気象台で1年間に観測された風速別の出現頻度の割合

温度差から生まれる風

穏やかに晴れた夏の海岸では、昼間、海から心地よい風が吹いてきます。この風は「海風(※2)」と呼ばれます。

陸と海は日射を受けて温められますが、土や岩と、水では温まり方に違いがあるため、陸上と海上の空気に温度差が生じます。この温度差を埋めるために空気の移動が起こり、これが風となります。

例えば、関東地方では、太平洋と関東平野の温度差から大規模な海風循環、陸風循環(※3)が起こっています。

海風、海風循環の仕組み
  • 関東平野で起きている海風循環

    7月20日の午前0時から午後9時まで(21時間)の地上の気温と風の向きの変化をシミュレーションしたものです。日の出とともに陸の気温が上昇(低温の青色から高温の赤色へ変化)し、気温の低い海から陸に向かって風が吹いていることが矢印(黒)の方向から分かります

地球規模の風も温度差から

赤道近くに吹く東寄りの貿易風と、中緯度地域に吹く偏西風が、地球規模の代表的な風です。これも温度差から生まれています。

丸い形の地球に、太陽光が平行光線として降り注ぐと、太陽高度(角度)が低緯度地方は高く、高緯度地方は低くなります。これにより受け取る日射に強弱の差ができ、南北方向の温度差を生み出しています。さらに自転による影響を受け、貿易風や偏西風になります(※4)。

風は再生可能エネルギー

温度差をならそうとする風に対し、太陽光は常に地球に降り注ぎ、南北の温度差を作り出そうとします。この結果、大気の大きな流れが維持されます。

太陽光が降り注ぐ限り、風は発生します。「風力エネルギーは再生可能エネルギーである」といわれるゆえんです。

地球を取り巻く大気の流れ
緯度の違いによる太陽高度(角度)の比較(年平均)
地球規模で起こっている対流圏(※5)内の大気循環断面図

2 風の両面性

日本には、毎年必ず台風が接近したり、上陸したりして、家屋や作物、人に多大な被害を及ぼすなど、風は大きな脅威となってきました。その一方で、高温多湿の気候に対応するため、家屋に風通しの良さを重んじるなど、私たちは古来から風を利用し続けてきました。人との関わりにおいて風は「脅威」と「利活用」の両面を持っています。

3 脅威となる風

建設分野でも、さまざまな風の課題があります。 夏から秋にかけて、日本列島の南に位置する熱帯の海で生まれた台風が襲来し、時に大きな被害をもたらします。そうした強い風が吹いても十分に耐えられる建物を造る必要があります。地震への備えと同様に、建物自体やそこで暮らす人、そこにある財産を守るための大切な課題です。

風に耐える建物を造る

建物を強風から守るための検討を「耐風設計」といいます。

建設する場所には、どのくらいの強さの風が吹くのか、建物にどのような力が加わるのか、それに耐えるにはどのような設計をすればよいのかなど、さまざまな課題があります。

大林組は、風洞実験や数値風洞「エアロダイナ」による風荷重の評価、風環境シミュレータ「Zephyrus(ゼフィルス)」によるビル風対策などに取り組んでいます。

「耐風設計」については、特集「風と向き合う」の2回目で詳しくご紹介します。

強風によって屋根や壁が飛ばされた建物

風の中で安全に建物を造る

自然現象である強い風は、建物を建設中であるか否かなど、私たちの都合とは関係なくやってきます。完成後の建物だけでなく「建設中の強風への備え」も大きな課題です。

東京スカイツリー®は、未経験の高さでの建設でした。上空では強風が発生する頻度が高く、風は大きな脅威の一つでした(※7)。

塔体に取り付けたクレーン(タワークレーン)などの大型建設機械を、地上500mを超える高さで安全に稼働させるため、大林組独自で行った現場上空の風観測記録と、気象庁が持つ高層の風観測記録を組み合わせて詳細に分析し、想定される風の強さを求めました。その風に耐えられるように、クレーンの固定方法や強風時のクレーンの姿勢安定方法を開発のうえ、施工しました。

日常的に吹く風が地上よりも強い高所現場では、風が工事の支障となる頻度も高まります

4 サステナブル社会に向けた風の利用

一方、東日本大震災以降、電力不足による省エネ意識の高まりや、エネルギー資源の多様化への動きが加速しました。太陽光、地熱、バイオマスなど再生可能エネルギーの活用促進が模索される中、休むことなく吹き続ける風の「利活用」は注目を集めています。

自然換気で省エネルギーを促す

省エネルギーの面ではこれまで以上に風活用の工夫が求められています。自然光を建物内に取り入れることで省エネ化を実現するように、風を室内に積極的に取り込むことで、空調機器の使用を抑え、エネルギー消費量を低減することができます。効率的な自然換気を促すためには自然の風が流れるような開口部の設計が必要になります。

  • 大林組技術研究所本館テクノステーションでの自然換気

風の道でヒートアイランドを抑制する

建物が複雑に林立する都市では、人の活動に伴う大量の排熱や、地表面のアスファルト化、コンクリート化により熱がこもりやすくなっています。そのため、ヒートアイランド現象(郊外に比べて島状に気温が高くなること)が発生するなどの都市の熱環境の悪化が問題になっています。

熱環境問題に対して風を活用する緩和策として、大規模な都市開発では、例えば海風(※2)を都市内部に導き入れるというような、風の通り道を考慮した建物の配置や形態にすることが求められるようになってきました。一部の自治体ではガイドラインの策定も始まっています。

風の通り道となり、夏の環境改善に役立っている建物配置の例

再生可能エネルギーの「風」で発電する

風は、再生可能エネルギーとして有望視されており、国際的にも発電量は年々大きな伸びを示しています。

日本でも今後、さらなる導入が期待されていますが、地形が複雑な日本においては、陸上における風車の建設に適した立地が年々減少してきています。厳しい地形条件での風力発電事業を可能とするためには、より精緻な風況評価が必要となっています。

5 大林組の取り組み

これまで見てきたように、建物内外の最適な配置計画や形状設計、精緻な風況評価など、風をより効果的に利活用するためには独自の技術が必要です。大林組がこれまで培ってきた技術や、課題の解決に技術を活かしてきた事例を紹介します。

換気に自然の風を活かす

換気は、温度や湿度、空気の新鮮さ(空気の質)など、屋内の空気環境を良好に保つうえで欠かせません。

オフィス空間では、中で働く人の体温や呼吸により、熱や湿気、二酸化炭素(CO2)が屋内空間に放出されています。またパソコンなどの事務機器も熱を放出しています。これらが空気の質を低下させる要因になります。

通常、冷暖房機(エアコン)や換気の設備(換気ファン)によって、空気の質が良好に保たれており、一般的なオフィスビルの場合、1時間当たり6~8回程度の換気が必要とされています。

換気に必要な消費エネルギーを減らすため、自然換気を導入し、シミュレーションを活用して、より効果的な開口部の配置を検討しています。

10階建て建物での自然換気シミュレーション(換気回数をフロアごとに算出)
建物周りの黒の矢印は風の向きと強さを表しています。風が吹くと風上と風下の外壁面で圧力差を生じ、換気を促します。最上階での自然換気量は「風がある場合」には「3回」(緑色)、「風がない場合」でも「1回」(濃い赤) 程度行われます。開口部を適切な位置に設けることで換気に必要な消費エネルギーを削減します

街を通る風の道を知る

熱環境シミュレータ「Appias(アッピアス)」を用いて、建物周辺の地面や空気の温度を予測しています。建物外周部に湿潤性舗装を行うなどのヒートアイランド対策技術を施した場合の効果を分析し、その最適な配置を提案しています。

しかし、都市の熱環境悪化の進行は早く、街全体で風を通りやすくするなど、これからは計画する建物だけでなく建物敷地の周囲を含む、都市レベルでの取り組みが必要です。

都市レベルでの計画に応えるため、市街地の中の風の流れを詳細にシミュレーションする解析手法「風の道評価ツール」を開発しました。建物に当たった風の乱れなど都市の中の複雑な流れを予測します。こうしたシミュレーション結果に基づいて、建物周辺の風の通り道を考慮した計画を行っています。

  • 風の道評価ツールによる市街地の気流の詳細なシミュレーション(動画再生時間:20秒)
    建物が林立する市街地の中を風が流れていく様子です。色は赤に近いほど強い風を表しています。建物によって流れが複雑に乱れる様子が再現されています

再生可能エネルギーによる発電のために

風力発電事業をサポート

風力発電を行うには、風車の建設に適した場所の選定、風と発電量の予測、収益性の評価など全体の計画をまず立てます。その後、事業の成立性を確認し、計画を含む設計、調達、施工という段階を踏みます。大林組は事前の全体計画や開業後の運用、管理までトータルに風力発電事業をサポートしています。

良い風が吹く場所を探す

風力発電では、風がよく吹く場所、多くの発電量を得られる場所を探すことが最も大事です。全体計画の中の風況調査でそれを行います。

発電を効率的に進めるには、風車の羽根(ローター)の回転軸高さ(発電容量によって地上30m~80m)で、年間平均風速が最低でも毎秒6mを超えるような立地が必要です。

風車建設の候補地を選ぶため、風が強い場所を探しました。図は海岸に近い丘陵地帯の地上30mの年平均風速分布を表します。広域の気象データに基づく、年間の天候変化から、流体の数値シミュレーション技術で風の強弱を求めました

複雑な地形を考慮する

陸上では、風が小刻みに強くなったり弱くなったりする、いわゆる風の息(乱れ)(※8)があります。平均的な風速がいくら高くても、乱れが多い風は風力発電には適さず、風車にも良い影響を与えません。候補地における風車の建設地点の選定では、風の乱れの大小も重要になります。

乱れの計算に適した数値シミュレーション技術を用いることで、最適な風車の建設場所をあらかじめ予測できます。

  • 風車建設の候補地をさらに絞り込むため、風の乱れが少ない場所を探しました。図は、起伏のある地域の地上70mの風の分布をシミュレーションしたものです。A地点とB地点を比べると、風速にはそれほど大きな差はありませんが、A地点とB地点との間の谷を風が越えるときにできた乱れの影響で、B地点では乱れが大きくなっています

風力エネルギーの利用に向け、陸上だけでなく、洋上の風況観測にも取り組んでいます。小刻みな地形の起伏などがないため、乱れが少なくかつ大きな風速が得られることから、今後の活用が期待されています。

  • 大林組が秋田県三種町で取り組む風力発電事業(2017年完成予定)

未来のために、技術を活かす

大林組は、地球規模の大気の循環や、地形的な状況から生まれる風と真摯に向き合い、日々研究を重ねてきました。これからも、自然災害をもたらす風から暮らしを守りつつも、身近なエネルギー源として風を活用する技術の開発に努めていきます。

次回の「風」をテーマとする特集「風と向き合う 2」では、暮らしを災害から守る具体的な取り組み「耐風設計」について詳しくご紹介します。

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