東日本大震災で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。大林組は、一日も早い復興に向けて全力で取り組んでまいります。
かつてないほどの被害と影響をもたらした震災から2年が経過しました。特集 巨大地震に備える 1では、震災によってあらためて浮き彫りになった課題の中から、「超高層ビルの大きな揺れ」について紹介しました。
今回、巨大地震に備える 2では「津波」を取り上げます。繰り返される自然災害を過去のものとせず、先人からの知恵と、今できる備えを次の世代へと引き継ぐため、ここでは津波への備えをハードとソフトの両面からご紹介します。
1 津波とは
津波はなぜ起こるのか
津波のスピードはジェット機並み
震源で発生した津波は、太平洋などの深い所ではジェット機並みの速度(時速700~800km程度)で陸地に近づいてきます。
その速度は水深が浅くなるにつれて遅くなりますが、大陸棚(深さ100~200m)でも自動車程度(時速100km程度)のスピードがあります。
2 巨大津波
南海トラフ巨大地震による津波
2012年3月、内閣府は、南海トラフ(※3)で近い将来起こる巨大地震を想定し、それに伴い発生する津波の高さ(※4)を発表しました。
津波の高さは最大で34.4m(高知県黒潮町)になるとされ、東日本大震災を上回る被害が予測されています。
日本で発生した大津波
明治以降だけでも、三陸地方に限らず日本中で大きな津波を伴う地震が発生しています。(※5)
チリ地震による大津波
また1960年のチリ津波では、地球の裏側のチリで起きた地震によって発生した津波が日本の広い範囲に襲来し、大きな被害を受けました。このように、地震の揺れは感じなくても津波が襲ってくることもあります。
チリで発生した津波は、太平洋をジェット機並みのスピードで横断し15時間後にハワイ諸島へ達し、22~23時間後に日本へ到達しています。日本では北海道、三陸地方、志摩半島、沖縄など、広い範囲で甚大な被害を受けました。
3 ハードで備える
防波堤と防潮堤
海の波を防ぐ構造物として防波堤と防潮堤があります。よく似ていますが以下のような違いがあります。
- 防波堤:海の中にあり外洋からの波(風波、津波)に対して港の内側を波立たせないための堤防
- 防潮堤:陸上にあり、高潮、高波、津波などの浸入を防ぐための堤防
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防波堤は海の中に設置
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防潮堤は陸上に設置
防波堤による浸水範囲の縮減と避難時間の確保
東日本大震災において、防波堤や防潮堤の多くは津波の浸入を完全に食い止めることはできませんでした。しかし、浸水範囲(※4)の縮減と避難時間の確保から被害の低減に効果があったことが検証されています。
防波堤の効果を計算によりシミュレーションし比較しました。動画でご覧ください。
防波堤があることで浸水範囲が明らかに小さくなり、津波の被害を低減させることが分かります。浸水範囲を減らすことで、被害範囲が減り、避難する距離も短くなります。同時に浸水までの時間を稼いでいます。※シミュレーションは特定の条件を仮定して行っています。
沖側の水位が防波堤や防潮堤の高さに達するまでの数分間は、避難時間を延ばす意味でとても貴重です。巨大津波を完全に止めることは難しいとしても、防波堤や防潮堤を整備していくことは大切です。
4 ソフトで備える
「津波てんでんこ」という言葉があります。これは三陸地方に昔から伝わるもので「地震があったらおのおのが(てんでんに)とにかく高台へ逃げろ」という意味で、津波に対する心構えを示したものです。津波はとにかく避難することが重要です。
津波避難計画
津波避難計画とは、高台・津波避難ビルなどの避難する目標地点(※6)、方法、経路、高齢者など要援護者の支援方法について、あらかじめ計画しておくことです。計画通り実践できるように日頃から訓練を行う必要があります。
津波の到来と津波からの避難についてシミュレーションを行いました。避難する人(青い丸)は、津波避難計画に基づいた避難訓練などにより避難ビルまでの最短経路をたどります。避難する人が避難ビルに到達する様子を動画でご覧ください。
津波は、地震発生後約9分で海岸線に到達しますが、防潮堤が陸上への遡上(そじょう)までの時間を3分ほど稼いでいます。防潮堤などの整備とともに、避難訓練の有効性を示しています。※シミュレーションは特定の条件を仮定して行っています。
災害を小さくするためには、防波堤や防潮堤などハード面での整備だけでなく、津波を予測し、避難計画を立てて繰り返し訓練するなど事前の備えも大切なことが分かります。
5 大林組の取り組み
大林組は、津波被害の低減に向けて、技術を通じてさまざまな取り組みを行っています。
津波に抵抗するハード技術で備えます
(1)異常時にだけ浮上する「直立浮上式防波堤」
湾や港の防波堤には船の出入り口(航路)が設けられ、そこから津波が浸入することで被害が大きくなります。そこで、平常時は船の航行が自由にでき、津波・高波が襲来したときだけ海底から鋼管が浮上する可動式防波堤を開発しました。
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防波堤が作動する様子(動画再生時間:約55秒)
海底に設置された下部鋼管と、その内側に挿入された上部鋼管との二重構造になっています。津波・高波のときには、陸上の送気設備から送気管を通して上部鋼管内部に空気が送り込まれます。浮力により海面に上がった上部鋼管が防波堤を形成します。
防波堤の性能を実験で確認
実際のスケールにすると約7.5m相当の津波を発生させ、そのときの防波堤の性能を確認しました。
※直立浮上式防波堤は、大林組、三菱重工鉄構エンジニアリング、東亜建設工業、新日鉄住金エンジニアリングの民間4社と、(独)港湾空港技術研究所で共同開発したものです。
(2)石炭灰を有効活用した防潮堤の建設
防潮堤の建設には多量な盛土材を用います。大林組は石炭火力発電所で発生する灰を盛土材に活用する方法を開発しました。
火力発電所から発生する石炭灰は、セメントの原料として有効活用されていますが、多くは大量に廃棄物として処分されます。
石炭灰には、有害物質がごく微量に含まれることがあるので、これが流れ出さないようにセメントなどを混ぜて不溶化(※8)して利用する改良盛土材を開発しました。
周辺の環境に影響を与えることなく、石炭灰を防潮堤の盛土材として有効活用できます。
津波減災に役立つソフト技術で備えます
(1)あらかじめ挙動を予測する「津波シミュレーション」
津波の対策を講じる際には、津波の挙動を計算によって予測する津波シミュレーションが効果を発揮します。防波堤や防潮堤の位置や規模の検討をはじめ、津波避難ビルの設計や津波避難計画などに活用できます。
(2)避難計画を支援する「津波避難シミュレーション」
マルチエージェントモデル(※7)を用いて、津波避難の開始から避難完了までの避難性状を予測します。津波避難ビルや津波避難タワー(※6)などの施設のレイアウト、収容人数などの計画や避難経路の整備計画に活かせます。
(3)アンケートで簡易診断「津波リスク評価システム」
防波堤の性能を実験で確認
簡単なアンケートから、海岸沿いに立つ工場などの津波に対する弱点が分かるシステムです。
建物を対象に、海岸からの距離、構造、避難施設の有無、施設の防水対策などに関するアンケートを行うことで診断できます。
診断結果として、7項目(建築被害、人的被害、生産設備被害、資産の喪失、営業停止、機能低下、外部への影響)に対する影響度を、レーダーチャートで出力します。
自然災害に強い街へ
津波の発生を避けることはできません。しかし、津波が襲来してもその勢いをなくす仕組みや、避難しやすい街づくり、迷わず避難できる知恵と心構えがあれば、尊い命と暮らしを守ることができます。
大林組は、これからも地震や津波などの自然災害による被害や影響を、最小限に抑える防災、減災の技術や予測技術の開発に努め、安全で安心して暮らせる街づくりに貢献できるよう取り組んでまいります。