プロジェクト最前線

難波のまちに新たなスカイラインと安全な未来を描く

(仮称)新南海会館ビル建設工事

2018. 08. 23

大阪の商業と芸能文化の中心・難波で、高層ビルの建設が佳境を迎えている。キタとミナミをつなぐ大動脈・御堂筋。その南端に位置する南海なんば駅を中心に広がる難波のまちには、百貨店が入る駅ビルや、その上部にそびえるスイスホテル南海大阪なんばパークスなど大林組が手がけた物件が多数あり、大林組は南海電気鉄道と共にまちづくりの一翼を担ってきた。

駅ビルに隣接する8階建ての旧南海会館の建て替え計画が動き出したのは2011年。「なんばスカイオ」と名付けられた新しいビルは、発注者の中期経営計画の基本方針「なんばの活性化」の核となる施設で、関西国際空港への利便性から、観光客やオフィス需要が増加している同地のポテンシャルを飛躍的に向上させることを狙う。周囲の建物と接続する低層部には商業施設や観光拠点などが、高層部にはオフィスが入る複合ビルとなる。

複数の鉄道、高速道路が交差する要衝

工事を難しくしているのはその場所だ。駅ビルや阪神高速道路(以下、阪神高速)などに囲まれ、外周を途絶えることなく人や車が行き交うまさに難波の中心地。さらに建物は、特区による容積率の緩和を最大限活用して敷地一杯に計画されているため、工事用の公開空地はほぼゼロで、大型車両の搬入経路も限られる。

「どうすれば、車両や作業の動線確保と資機材などの搬入が円滑にできるのか」この検討に多くの時間と労力を費やしたことを所長の大島は振り返る。

動線確保のために取り入れたのが逆打(さかう)ち工法(※1)。先行して構築する1階の床を作業場にフル活用できる。ねじれや変形に強い床に、駅や阪神高速をはじめとした周辺施設の変位を抑える効果も期待した。

地下作業の施工性を上げるため、掘削面の崩壊を抑える切梁を効率的に配置し、狭いスペースでも建設機械が転回できるようにした。1階地上部では、逆打ち工事に必要な複数の開口部を随時見直して2ヵ所に絞り、作業スペースを確保した。また、一般道からの搬入経路となる車両用出入り口を一ヵ所に限定。事故の防止にもつなげている。

  • ※1 逆打ち工法
    地下と地上の工事を並行して行う工法。地下の工事については、先に地上1階の床を構築し、順次上層階から地下階の床を構築する
設計施工で進める工事は、交通インフラに囲まれた往来の激しい場所で行われている
設計施工で進める工事は、交通インフラに囲まれた往来の激しい場所で行われている
重機動線を考慮して斜め切梁を配置
重機の動線を考慮して切梁を斜めに配置

クレーンのつり荷の回転はスカイジャスターで抑制

もう一つのポイントとなる鉄骨や外壁PC(プレキャストコンクリート)版などの搬入は、前面道路からの夜間揚重に限定されるため、いかに効率良く作業するかに焦点が当てられた。しかも、阪神高速との距離はわずか8mしかなく、つり荷の回転は厳禁だ。

そこで外壁PC版などをトラックに平積みできるギリギリのサイズまで最大化して搬入回数を削減。揚重にはジャイロ効果でつり荷の回転を制御するスカイジャスターを導入することで、安全かつスピーディーな作業が可能となり、順調な工程消化に貢献した。

阪神高速との距離は8m。手前の一般道路を一部封鎖し、つり荷の回転を抑えるスカイジャスターで夜間に揚重
阪神高速との距離は8m(写真上部)。クレーンのフックと鉄骨の間に取り付けたスカイジャスターで揚重中の回転を抑える

スローガンは「近接トラブルゼロ」

安全看板に書かれた「近接トラブルゼロ」の文字。所長の大島は、第三者災害の防止と、近接施設に対する影響の抑制を、安全の最重要事項として掲げる。

第三者災害で特に気を配ったのが飛来物の落下だ。対策は3つ。一つは、外壁PC版が、床スラブの打設時に防御壁の役割を果たすよう、先行取り付けできる設計に変更した。2つ目は、中層階以上の外壁PC版の外側にせり上げ足場を架設した。3つ目は、歩道上部を覆う防護構台を設置したことだ。三重の対策で通行者の不安を取り除き、安全施工を前進させている。

近接する施設への影響については、施設の用途によって作業時間を細かく設定している。例えば、騒音作業はスイスホテルに近い箇所では昼間のみ、一方、百貨店付近では閉店後のみといった具合だ。毎日の工事調整会議で、エリアごとに騒音・臭気などが発生する作業を抽出し、設定された時間外の作業にならないようチェックを徹底している。

建設現場からJR難波駅方向を見る。阪神高速や駅ビルが直下にあり、飛来落下物は許されない
建設現場からJR難波駅方向を見る。阪神高速や駅ビルが直下にあり、飛来落下物は許されない
高層部でのホテルとの離隔は6m
高層部でのホテルとの離隔は6m

2600tのおもりで建物の揺れを抑える

大規模工事のため、意匠や構造、設備の設計担当者が現場近くに設けられた分室に常駐している。コンセプトは、周辺街区にある建物のファサードを継承しつつ、災害に強いBCP対応ビルにすることだ。

ビルの高さをスイスホテルやなんばパークスのオフィスタワーと同一にして連続したスカイラインを形成。低層部の外壁は、駅ビルやなんばパークスに用いられている大地を表現したアースカラーを踏襲するタイル張りとなっている。

現場近くの分室に常駐して、発注者からの要望に迅速に応える設計チーム
現場近くの分室に常駐して、発注者からの要望に迅速に応える設計チーム
屋上に設置された制震装置TMDのフレーム。免震ゴムとダンパーが配されている
大小さまざまな地震の揺れを抑えるため、屋上に設置されたTMD制震装置。免震ゴムとダンパーが配されている

南海トラフ地震など長周期地震に対応する、災害に強いビルをめざして導入したのが、屋上のTMD(チューンドマスダンパー)制震装置 。これは免震ゴムとダンパーで構成されたフレームの上に、1フロア分の重量に相当する約2600tのコンクリートの錘(おもり)を載せたもの。地震の際に、錘が建物と逆方向に動くことで揺れを低減させる制震装置だ。

各階に備えられた制震ダンパーと合わせてハイブリットな制震構造を実現している。さらに、中間階と31階には、柱を三角形に組むメガトラスが構築されており、剛性をより一層高めているのだ。

設備面での充実も見逃せない。一週間稼働が可能な非常用電源をはじめとしたBCP対応機能や、頭涼足温をテーマとした高い省エネ性・省CO2を誇る空調設備など、最新技術が詰め込まれている。これらが評価され、国土交通省サステナブル建築物等先導事業などに選定された。建物利用者にも環境にも優しいビルといえる。

2フロアにまたがって架けられたトラス鉄骨
2フロアにまたがって架けられたトラス鉄骨
細かな温度調整ができる「スキットエア」、室内の温度を適温に自動制御する「高顕熱制御」、天井裏の温かい空気を床から吹き出す「足温空調」で頭涼足温を実現する
細かな温度調整ができる「スキットエア」、室内の温度を適温に自動制御する「高顕熱制御」、天井裏の温かい空気を床から吹き出す「足温空調」で頭涼足温を実現する

大阪のモデル現場をめざして

大阪のモデル現場をめざして
大阪のモデル現場をめざして
(仮称)新南海会館ビル建設工事

施工の難しさが詰まった建設現場。若手社員にとっては、専門的な知識を豊富に吸収できる環境だ。施工エリアや工種別のチームに分かれ、細かく担当が定められているため、これは自分の仕事だという強い責任感を持つことができる。

幅広い視野で現場を見る能力を習得するために取り入れたのはフロアマスター制度。社員一人ひとりが1フロア全体の責任者となり、日々、巡回しながら安全や品質に不備がないかを確認し、指示するというものだ。一週間で担当フロアが変わるため、それぞれの工種や仕様に合わせた的確な段取りを身に付けることができる。

工期が短く、かつ24時間体制という条件下でも、4週7休を推進。日勤・夜勤の完全退社時間の設定やシフト調整による連休取得など、働き方改革にも積極的だ。

大阪のモデル現場をめざし、工事はラストスパートに入った。なんばの魅力向上と活性化に弾みを付けるビルの開業は今秋だ。

(取材2018年1月)

工事概要

名称 (仮称)新南海会館ビル建設工事
場所 大阪市
発注 南海電気鉄道
設計 大林組
概要 S造・SRC造・RC造、B2、31F、PH付、延8万4,295m²
工期 2014年1月~2018年9月
施工 大林組、竹中工務店、南海辰村建設

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