東京・上野公園にある東京国立博物館には、さまざまな時代に建てられた5つの博物館がある。その中でただ一つ明治時代に建てられたのが、緑青(ろくしょう)色の丸屋根を持つ表慶館だ。
明治という時代は西欧の文化や技術を一気に取り入れた時代で、建築も例外ではなく、1877(明治10)年に来日したイギリス人建築家・コンドルによってさまざまな建築様式がもたらされた。西洋建築は日本の文明化を示すうえでも不可欠であり、鹿鳴館をはじめ多くの洋風建築が生まれた。
宮殿建築の極み
表慶館は、皇太子殿下嘉仁親王(後の大正天皇)の御成婚を祝って、市民からの寄付金によって奉献された美術館である。設計は、コンドルの弟子で宮内省の建築家・片山東熊によるもので、1901(明治34)年から7年の歳月をかけて1908(明治41)年に完成した。
片山東熊の代表作、旧東宮御所(現迎賓館赤坂離宮)とほぼ同時期に完成しており、日本人が設計した洋風宮殿建築の極みとして、1978(昭和53)年には重要文化財に指定されている。
外観に石を張った煉瓦造りの洋館は、中央に大ドーム、その両側に左右対称の小ドームが配置され、堂々たる威容を誇っている。
建物内に入って見上げると、ドーム型の天井まで吹き抜け空間が広がり、その中央から光が射し込む様子はまさに壮観だ。
2階展示スペースの漆喰の壁は、天窓からの柔らかな光に照らされてクリーム色のグラデーションを描き、明治の時間がそのまま息づいているように感じられる。
創建当時の仕事に出会う
創建から97年が経った2005(平成17)年には、大屋根の葺き替え、屋根小屋組みの耐震補強、建物内外の汚れのクリーニングなどの大規模な補修工事が大林組によって進められた。
シンボルである緑青の銅板瓦は、慎重に一枚一枚手で外され、使用可能なものは再び屋根の瓦として使われた。通常、銅板は30年以上の歳月をかけてゆっくりと緑青に変化するが、新たに葺いた銅板には自然に緑青が発生する特殊な塗装を施しており、補修の10年後には再び自然の緑青屋根が完成する予定だ。
一方、ドームの上部にはフィニアルと呼ばれる細くとがった飾りが垂直に立ち、建物を凛とした姿に見せている。フィニアルは檜の木組みに厚さ0.4mmの銅板が貼られてできており、補修工事では木組みが帯状のステンレスで固定された。
明治時代の職人の名前が刻まれたフィニアルの芯木には、「平成十八年度修復」の焼印も押され、平成における仕事が記された。
百年前の仕事を、百年後まで残したい
建物の外観を覆っていた汚れを落とし、創建当時の色を再現することで、表慶館は当時の姿を取り戻した。100年の時を超え、明治時代の文化の息吹を、今そして未来に伝えている。
【東京国立博物館表慶館】
- 竣工:1908(明治41)年
- 補修:2006(平成18)年
- 住所:東京都台東区上野公園13-9
- 行き方:JR上野駅下車、公園口を出て徒歩10分