威風堂々たる「美と知識と憩いの場」
博物館や美術館など、さまざまな文化施設が建ち並ぶ東京・上野の森。深い緑の中をしばらく歩いていくと、大噴水のある広場の先に、威風堂々たる建物が姿を現す。かつては帝室博物館と呼ばれ、今も数々の国宝や重要文化財が陳列・保管されている「東京国立博物館」だ。
敷地内に入り、改めてこの博物館を見ると、エントランスを中心として左右対称に建物が配置されていることが分かる。
実はこの建物、2代目にあたる。初代の博物館は、1881(明治14)年に完成した赤レンガ造2階建ての洋風の建物だった。しかし、この建物は関東大震災によって大きな損害を受け、使用に耐えられなくなってしまう。復興には巨額の資金が必要となることから、計画が具体化したのは1928(昭和3)年のことだった。
そして1930(昭和5)年、設計案が公募されることとなった。募集の規定には「日本趣味を基調とする東洋式とすること」とあり、1等となったのは渡辺仁氏の作品だった。採用されたデザインは、高く立ち上がった壁の上に瓦屋根を載せるという、和と洋の要素を取り入れたものだった。当時流行していた「帝冠様式」である。
「日本の宝」を守るために
1932(昭和7)年、いよいよ大林組の手によって工事が始まった。発注者からは、最高水準の精度管理で工事に臨むことが求められた。それは、建物の中に陳列されるものが、考古学的に価値の高い遺物や仏像、絵画、古文書、工芸品など、まさに「日本の宝」とも呼べる貴重な品々ばかりだからだ。
そこで基礎や躯体、仕上げに至るまで大林組の持てる最高の技術が投入された。作品の保存と鑑賞に万全を期するため、高窓からの採光はブラインドで調節できるようにし、窓の外にはシャッターや鉄の扉が設けられた。特に陳列室内の採光については、実物大の部屋を作成。念を入れて検討が進められた。さらに、防犯対策には手元の操作ボタン一つで全館の施錠ができるという、当時としては画期的な設備が採用された。
また、建物のハード面だけでなく、来館者に圧迫感を与えないよう、ソフト面にも十分に配慮して建設が進められた。展示室内の天井に緩やかな膨らみを持たせたり、照明の装飾や通気口のグリルに意匠を凝らしたりするなど、さまざまな工夫を取り入れた。
歴史・伝統文化を保存し、次世代へ継承する使命を担う
1937(昭和12)年11月、5年もの歳月をかけ、施工人員が延べ90万人にも及んだ工事はついに竣工の日を迎えた。震災による被害から実に14年の月日が流れていた。
翼を広げ、中空にそびえ立つような堂々とした外観は、多くの人々の注目を浴びた。また、四季を通じて、室内の湿度や温度が最適に保たれる最新の設備は、世界の博物館を通じて初めての試みだと高く評価された。
2001(平成13)年には、この建物自体が重要文化財に指定されるなど、時代を経てもその価値はますます高まっている。これからもこの博物館は「美と知識と憩いの場」として、国内はもとより、世界各国から訪れる人々の心を魅了し続ける。
取材協力/東京国立博物館
【東京国立博物館】
- 竣工:1937(昭和12)年
- 住所:東京都台東区上野公園13-9
- 行き方:JR上野駅下車、公園口を出て徒歩10分