省スペースに設置でき多様な地震に対して耐震性能と制震効果を発揮する「クロスダンパー」を開発
コスト削減、工期短縮も実現し、熊本城天守閣の耐震改修にも採用
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プレスリリース
株式会社大林組(本社:東京都港区、社長:蓮輪賢治)は、建物の耐震改修工事においてブレーキダンパー®(※1)とオイルダンパーを交差させて組み合わせることで、さまざまな大きさの地震に対して耐震性能の向上と制震効果が得られる「クロスダンパー」を開発しました。従来の技術と比較して、非常に省スペースに設置することができることから、内部に展示施設があり設置スペースに制約のあった熊本城天守閣の耐震改修工事に採用されました。
ブレーキダンパーは、中小地震時には高い剛性で耐震性能を向上させ、大地震時には揺れのエネルギーを吸収するダンパーとして有効に働きます。オイルダンパーは中小地震から大地震までダンパーとして効果を発揮するもので、この2つのダンパーを交差して組み合わせたユニットが、今回開発したクロスダンパーです(図1)。
これまで、ブレーキダンパーとオイルダンパーを設置する際は、それぞれを柱と梁に囲まれた空間(構面)に設置していたため、二構面の設置スペースが必要でした。クロスダンパーは、一構面に設置できるため、設置場所の確保が難しかった建物でも高い耐震性能と制震効果が得られます。また、設置箇所数を削減できるため、耐震改修工事のコスト低減と工期短縮も実現します。
クロスダンパーは、大林組が施工中の熊本城天守閣復旧整備事業における耐震改修工事での採用が決まりました。2016年の熊本地震で損傷を受けた天守閣の耐震改修工事では、地震時の揺れを効果的に低減することが求められており、展示施設を有する天守閣内の限られたスペースの中でも、高い耐震性能と制震効果が得られるクロスダンパーが高く評価されました。
実大モデルによる実証実験の様子を動画でご覧いただけます
(動画再生時間:1分6秒)
クロスダンパーの特長は以下のとおりです。
2つの耐震要素を組み合わせて省スペース化を実現
既存建物の耐震改修では、構面に耐震用のブレースや制震ダンパーを設置します。人の動線の確保など建物利用の制約を減らすためブレースなどを設置する構面数が最小限となるよう計画しますが、建物内にはこれらを設置できる構面が少ないのが一般的です。これまで、耐震用のブレースと制震ダンパーを設置する場合は二構面が必要であり、通路をふさがねばならないなど、既存の動線を阻害することがありました。
クロスダンパーは、2つの異なる機能を持つ耐震要素をユニット化することで省スペースでの設置を可能とし、人の動線を阻害することなく耐震性能と制震効果を確保します。高い剛性を有するブレーキダンパーの主材部分に貫通孔を設け、制震効果を発揮するオイルダンパーを貫通させることで同じ軸線上に配置し、ねじれが生じない構成としています。この貫通部分には、十分な余裕を持たせることで、それぞれの耐震要素は干渉せずに効果を発揮します(写真1)。
さまざまな大きさ、特性の地震に対応可能
クロスダンパーは、中小地震時にはオイルダンパーが揺れを制御し、大地震時にはオイルダンパーに加えてブレーキダンパーが地震のエネルギーをさらに吸収して揺れを抑えるため、さまざまな大きさの地震に対して優れた制震効果が得られます。
また、建物が変形する大きさにより効果が変化するブレーキダンパーと、建物が変形する速度により効果が変化するオイルダンパーは、それぞれ最大の効果を発揮するタイミングが異なるため、さまざまな特性の地震に対して柱・梁に過大な力が作用することを防ぎます。通常の耐震改修では、大地震時に建物が倒壊せず人命が確保できることを目標耐震性能としていますが、これに加えてクロスダンパーの持つ優れた制震効果により建物の持続的な利用が可能となります。その安全性は、実大モデルによる実証実験と数値解析モデルによるシミュレーションにより検証、確認しています。
設置作業の削減によるコスト低減・工期短縮
既存建物の耐震補強工事にかかる費用は、設置場所となる構面の解体復旧や耐震用ブレースや制震ダンパーといった耐震要素の設置などに関する作業費が大部分を占めます。特に構面の四辺の枠材を既存の柱・梁と一体化する作業に手間がかかりコストや工期の増大を招くうえ、それに伴う騒音・振動・粉じんといった環境への対策にも苦慮していました。クロスダンパーは、設置箇所数を従来よりも半減できるため、コストの大幅な削減と工期の短縮が可能となり、さらに耐震改修工事における建物利用者の環境も改善します。
大林組は、耐震要素の設置場所、箇所が制限される集合住宅、病院や商業施設などこれまで十分な耐震、制震対策が難しかった建物を対象にクロスダンパーを積極的に提案し、建物利用者のさらなる安全・安心に貢献していきます。
※1 ブレーキダンパー
地震や強風で建物が揺れたとき、ステンレス板とブレーキ材の間で摩擦力が発生し、揺れのエネルギーを吸収する制震システム。超高層ビルの揺れ対策のほか、既存ビルの制震改修にも適用できる。皿ばねを介してボルトでステンレス板とブレーキ材を締め込むため、安定した摩擦力が発生する。ブレーキダンパーは「ブレーキダンパーを用いた耐震補強工法」として、一般財団法人日本建築センターの建設技術審査証明を取得している
以上
この件に関するお問い合わせ先
大林組 CSR室広報部広報第一課
TEL 03-5769-1014
プレスリリースに記載している情報は、発表時のものです。
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