都内屈指の繁華街・池袋で、線路をまたぐビルとして注目を集めるプロジェクトが佳境を迎えている。線路際にあった西武鉄道の旧本社ビル跡地(東敷地)に加え、線路上部、線路を挟む対面の所有地(西敷地)という3つの敷地を一体的に活用することで生まれる、高さ約100m、池袋最大級の貸室面積を誇るオフィスビルだ。
池袋エリアをけん引するという発注者の思いが詰まった建物は、周辺地域への貢献にも重点が置かれている。豊島区が構想中の「東西連絡通路」と接続予定のデッキが、にぎわいの創出と利便性の向上の一翼を担う。さらに、中間免震構造の採用や高度なBCP対策によって、高い防災性を兼ね備えており、避難場所としての機能も有するのだ。
その分、施工難度の高さは大林組の施工物件の中でも屈指。線路上部の人工地盤や、複雑な構造の構築はもとより、前面道路の幅員はわずか6m、かつ常時多くの歩行者が通行するといった条件も重なる。
着工前から施工の課題が山積みだった。工事計画を担ってきた副所長 三栖は「第三者や鉄道の安全を確保しながら、品質の良い建物を効率的に施工するために、発注者や設計者と膝を突き合わせて、工事のストーリーを練っていきました」と語る。多くの関係者が知恵を出し合い、最適解を探りながら難工事はスタートした。
逆打ち工法の長所を活かす
地下躯体工事は、線路を挟んだ東敷地と西敷地それぞれで進められた。工事の初期段階で大きなポイントとなったのが「逆打ち工法(※1)」の採用だ。先行して構築する本設躯体と土留め壁が高い剛性を発揮し、線路軌道の変位を防ぐ。
一般の切梁工法に対して地下の内部空間を確保できるため、大型重機を投入でき、既存地下躯体解体工事のスピードアップも狙えた。何より1階の床を工事用ヤードとして最大限利用できることが大きかった。「逆打ち工法のメリットを複合的に活かすことで、工事は順調に滑り出すことができました」と副所長の三栖は話す。
- ※1 逆打ち工法
地下と地上の工事を並行して行う工法。地下の工事については、先に地上1階の床を構築し、順次上層階から地下階の床を構築する
東西の敷地をつなぐ人工地盤を8ヵ月かけて構築
メガフレームと呼ばれる門型構造の低層部は、1階がエントランスと線路、2階が店舗と線路上部のデッキから成る。建物の荷重を受けるのは、V字に架けられた地上から3階に達する16本のCFT(コンクリート充てん鋼管構造)柱。仮受支柱で支えながら、部材を継ぎ足して伸ばしていった。
V字柱の構築が進み、線路に近いエリアの2階架構が完了。いよいよ、東西26m、南北60mに及ぶ人工地盤を線路上部に築く作業に移行した。
その作業は終電後、き電停止を確認してスタートする。作業時間は2時間半、正確な時間管理が求められた。工程消化のカギとなるのが縦横方向や設置箇所によって形状が異なる梁の架設。それぞれに適した手順は、橋梁工事を参考に導き出した。梁を架設桁からつり下げてブロックのように接合していく工法、地組みして一括で架設する工法などだ。
施工に当たっては、事前に金具などの部材や仮設設備をユニット化して線路上での作業を最小限にとどめ、また、シートで線路を覆い、飛散物の有無をチェックするなど、安全確認にも万全を期した。鉄道運行への影響を一切出さずに、8ヵ月かけて人工地盤を造り上げた。
外殻耐震ブレースは単純化で省力施工
線路上部の人工地盤によって、両敷地の地上構造体は初めて接続された。工事が低層階から高層階へと移行していく中で目を引くのが、外周に格子状に架けられたブレースだ。鉄道の運行計画を示した線図「ダイヤグラム」をイメージしているという。
その機能について「建物全体を殻のように包み込むことで地震時にかかる水平力を負担する仕組みです。これにより、内部は中央のコア部分から間口の柱まで、18mのロングスパン梁を架けることができます。無柱で快適なオフィス空間を実現させています」と副所長の三栖が説明した。
一方で架構が柱、梁、ブレースと三つの鉄骨部材で構成されるため、通常の建物よりもワンフロアの構築に時間がかかる。そこで、ブレースの取り付けスピードと精度を上げるために試みたのが地組みの単純化。ブレースの全体像をパズルのように分解していき、「A」や「ヘ」の字形など4つのパターンに絞り込んだ。
さらに、寝かせて地組みすると広いスペースを要すため、部材を立てたまま地組みできる架台を設置するなどの工夫も加えた。「同じ作業を続ける習熟効果で、徐々にワンフロアに費やす時間を短縮できました」と所長 石川はその利点を語る。
地上躯体着手から人工地盤、最上階の構築まで
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2017年1月31日 地下躯体構築を終え東西の両敷地で地上躯体に着手
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2017年5月29日 線路上空に人工地盤がかかり、両敷地がつながる
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2018年6月13日 20階建てのビル全貌と斜め格子のデザインが現れる
すべての関係者が達成感を味わえるように
仕上げ工事が着々と進む現場では、協力会社との連携は不可欠だ。「現場の難度を考慮して、スーパー職長をはじめとしたエキスパートが集まっている。彼らとの会話から気付かされることも多い」と副所長の三栖は述べる。現場の安全をより盤石にするためには、協力会社とタッグを組むことが必要になってくる。強固なつながりは安全管理にも活かされている。
「課題の多い工事だからこそのやりがいがある。ここでの実績が社員一人ひとりの、そして大林組の成長につながると信じています。関係者が一致団結して、竣工という終着駅をめざします」と所長の石川は思いを語った。
(取材2018年5月)
工事概要
名称 | ダイヤゲート池袋 ((仮称)西武鉄道池袋ビル新築工事) |
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場所 | 東京都豊島区 |
発注 | 西武鉄道(事業代行者:西武プロパティーズ) |
設計 | 日建設計 |
概要 | S造一部RC造・SRC造、免震構造、B2、20F、PH付、延4万9,661m² |
工期 | 2015年7月~2019年3月 |
施工 | 大林組、西武建設 |