北海道ボールパーク(仮称)に芝の生育予測システム「ターフシミュレータ®」を適用しました
開閉式屋根の野球スタジアムへの天然芝導入に向け高精度な生育予測を実施
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プレスリリース
株式会社大林組(本社:東京都港区、社長:蓮輪賢治)は、株式会社北海道ボールパーク(本社:北海道札幌市、社長:福田要)が、技術提案型の総合評価方式で実施した「北海道ボールパーク(仮称)建設工事」の選定コンペにおいて、施設内の環境条件から芝の生育状況を高精度で予測できるシステム「ターフシミュレータ」を適用しました。
開閉式屋根を備えた野球スタジアムに国内で初めて天然芝を採用するに当たり、芝が健全に育つことを本システムにて高精度に予測のうえ提案しており、選定後も本システムを設計業務において活用しています。ターフシミュレータは国立大学法人京都大学(所在地:京都府京都市、総長:山極寿一)と2011年に開発したシステムで、その後も適用範囲を広げるための試験を重ね精度を向上させています。
スタジアムの芝は、選手の健康や安全を考慮すると天然芝が適していますが、グラウンド全体を覆うような屋根を備えた野球スタジアムでは主に日照不足が原因で天然芝の生育が困難になることから(※1)、これまで国内では人工芝が採用されていました。
一般に、大きな屋根があるスタジアム内で良好な芝を育成するためには、屋根の形状を工夫することや屋根や壁にガラスを使用することで極力日光を取り入れたり、地面の温度をコントロールする設備を導入するなど、芝の光合成と呼吸に有利な条件を整えるための設計が必要です(※2)。
そのため専門技術者は、計画の初期段階において、類似施設での生育状況などを参考にしながら生育を予測しますが、光合成は光・温度・湿度のすべてに影響される特性があり、場所や季節、時間ごとに変化する環境を踏まえたうえで精度の高い生育予測を行うことは困難でした。高精度で予測するための手段としては、現地で建物の縮小模型を製作して生育試験を実施する方法がありますが、結果が出るまで1年以上の期間がかかるため計画初期段階ではその結果を利用できないうえ、結果が悪くても再試験を実施することができず、結果を踏まえた設計変更や設備の追加などは困難でした。
今回適用したターフシミュレータは、植物生理学に基づく高精度な芝の生育予測モデルを用い繰り返しシミュレートすることで大規模な生育試験を実施しなくても、計画初期段階で施設の形状や環境条件の改善に必要な設備を検討できるなど、芝の生育を重視した建築・設備の設計を可能にするシステムです。
また、ターフシミュレータを構成する予測モデルは暖地型芝と寒地型芝(※3)両方に対応しており、幅広い地域に適用可能です。北海道ボールパーク(仮称)においても、開閉式屋根による複雑な日照条件を考慮した緻密なシミュレーションを繰り返し実施し、芝が良好に生育することを確認したうえで提案を行っており、現在は基本計画が完了しています。
ターフシミュレータの特長は以下のとおりです。
芝の生育を高精度に予測
ターフシミュレータは、芝の光合成および生長・衰退を7年にわたって計測した結果を利用した植物生理学に基づく予測モデルにより構成されています。葉と葉の間を透過する光や雨などの影響も考慮して、個々の葉の光合成や呼吸を予測します。植物生理学に基づき芝の生育予測モデルを構築した世界で唯一の技術です。
国内のほとんどの地域を対象に簡易に生育予測が可能
ターフシミュレータは、建物の設計データ、建設地の気象データおよび芝の初期状態を入力するだけで、建物内の芝の生育環境をシミュレートし、平面図上に葉と根の生育状況の分布と年変化を出力します。気象データは気象庁が公開しているデータを活用するため容易に入手できます。また、暖地型芝と寒地型芝の両方の予測が可能で、日本のほとんどの地域を対象に適用できます。
短期間で安価に芝の生育予測が可能
芝の生育予測の精度を確保するためには大規模な生育試験を実施するのが一般的ですが、試験に時間がかかるため、計画初期段階にその結果を利用できないうえ、結果が悪くても再試験を実施することが困難でした。ターフシミュレータは、芝の生育を短期間に繰り返し詳細に予測できるため、建物形状や環境条件の改善に必要な設備について、計画初期段階で検討でき、建設後にこのような設備を追加できずに芝が育てられない事態を防ぎます。さらに、その改善効果を比較検討することで、費用対効果を考えた最適な計画とすることができます。
また、大規模な生育試験に比べて安価に実施できます(※4)。
今後、選手が健康を保ちながら全力でのプレーを可能とする天然芝のスタジアムは、プロスポーツを中心に普及していくことが期待されています。大林組は、ターフシミュレータを活用したスタジアムの設計により、設計期間やコストへの影響を最小限にとどめながら、芝が健全に育つスタジアムを提供していきます。また、これらの計画に際しては将来の地球温暖化や天候不順の影響も考慮してターフシミュレータで評価し、長期的に安心して利用できるスタジアムをめざします。
- ※1 芝の生育は、光、温湿度、地温などの環境条件と施肥、水やり、病虫害対策などの芝管理によって決まる。後者は芝管理者が対応できるが、前者は設計時の対応が必要になる。前者の中では光不足の影響が大きいにもかかわらず、日光を取り入れる以外の対策には大きな費用がかかるため、大きな屋根を持つスタジアムで生育不良の主な原因になっている
- ※2 植物は光合成によってエネルギーを蓄える一方で、呼吸によってエネルギーを消費するため、両者の差し引きで芝の生育が決まる
- ※3 暖地型芝は耐暑性が高く、耐寒・耐陰性に劣るため、関東から西日本で主に使われる。寒地型芝は耐寒・耐陰性が高く、耐暑性に劣るため、関東以北で主に使われる
- ※4 北海道ボールパーク(仮称)では、積雪に対応して冬期に常時屋根を閉めるため、施設運用時の芝管理に活かす目的で生育試験を実施する
以上
この件に関するお問い合わせ先
大林組 CSR室広報部広報第一課
TEL 03-5769-1014
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