株式会社大林組(本社:東京都港区、社長:蓮輪賢治)は、富士フイルム株式会社(本社:東京都港区、社長:助野健児)がAIによる画像解析技術を用いて開発した「社会インフラ画像診断サービス」(※1)を利用し、特殊な高性能カメラで撮影した土木構造物の画像から、コンクリート表面のひび割れ幅と長さを高精度かつ短時間で自動検出する手法を確立しました。
近年、高架橋やトンネルなどの土木構造物を効率的に維持管理するため、コンクリート表面の画像から発生したひび割れを自動検出する技術が開発されています。しかし、従来のひび割れ自動検出技術は、目視による点検と比較して、ひび割れの検出率とひび割れ幅の計測精度が低い傾向にありました。
また、自動検出するには対象物に接近した画像が必要なため、大規模な土木構造物では撮影枚数が非常に多くなり、高所にある土木構造物では撮影に高所作業車やドローンの使用が必要となるなど、相応の作業時間とコストを要するため、より短時間で経済的に実施できる点検手法が求められていました。
そこで大林組は、富士フイルムの提供するAIによる画像解析技術を活用した「社会インフラ画像診断サービス」と特殊な高性能カメラの画像を組み合わせることで、コンクリート表面のひび割れの幅と長さをこれまで以上に高精度に、かつ短時間で自動検出する手法を確立しました。
本手法を用いることで、これまでより遠距離からの画像を用いて自動検出することが可能となり、作業時間とコストを大幅に削減できます。本手法確立に向け行った富士フイルムとの共同実証では、従来は難しかった暗い場所でもひび割れを検出できることが確認できました。
さらに、これまで実績がなかった曲面のひび割れ検出についてもその有効性を確認するなど、適用範囲の拡大を実現しました。
ひび割れ自動検出手法の特長は以下のとおりです。
- 高い精度でひび割れの幅と長さを自動検出
富士フイルムの画像解析技術は、医療分野において毛細血管を検出する用途で開発した技術をもとに新規開発したものです。大林組が本手法で使用する高性能カメラは、通常のカメラと比較して撮像素子サイズ(センサーサイズ)(※2)が大きく、色の階調も多いため、ひび割れ検出においてAIによる画像解析技術と相性が良いことを見いだしました。
本手法を実際の土木構造物に試験適用した結果、ひび割れ幅0.05mm以上のひび割れを100%検出し、近接目視によるひび割れ幅計測結果との適合率が90%以上となることを確認しました。本手法の適用により、専門の技術者の計測技量によらず一定の精度で点検が可能となり、経年比較によるひび割れの進展状況も正確に判断できます。
また、撮影した写真をクラウド上にアップロードした後、数分でひび割れを検出するため、作業時間も大幅に短縮できます。幅4.5m×高さ2m×長さ25mのボックスカルバート内部を対象とした試験適用では、近接目視による点検作業に対して4分の1の作業時間でほぼ同等の結果を得ることができました。 - 遠距離からの撮影を可能にし、作業時間とコストを大幅に削減
特殊な高性能カメラを利用することで、レンズの焦点距離が従来と同程度の場合、対象物までの距離が従来の2倍ほどであってもひび割れを検出することができ、最大で50m程度離れた場所から撮影した場合でも0.1mmのひび割れを検出できることを確認しました。
これまで画像によるひび割れ検出が難しかった高架橋の床版や河川の橋脚などでも、地上から撮影した画像で検出が可能となります。また、足場や高所作業車が不要となることから、近接目視による点検作業と比べて安全なうえ、作業時間とコストを大幅に削減することができます。
さらに、高性能カメラを使用することで一度に撮影できる範囲が10m×7m程度まで拡大し、撮影枚数を従来の5分の1程度に低減します(2000万画素のカメラと比較した場合)。
- トンネル曲面や暗い現場でも適用が可能
本手法では、従来はひび割れの自動検出が難しいトンネル内部のような暗い場所やトンネル曲面でも検出が可能です。「社会インフラ画像診断サービス」は、もともと高架橋の床版などの平面を対象としていましたが、富士フイルムと共同で実証した結果、曲面を撮影した場合でも、ひび割れ幅と長さを精度よく推定できることを確認しました。
また、照明の有無や明るさの変化などによる画像の変化にひび割れ検出精度が左右されることがありませんでした。土木構造物の形状を問わないうえ、ひび割れ検出時の照明の有無の影響も少ないため、従来技術に比べ簡易で安定した点検が可能です。
大林組は、今回確立した手法を、さまざまなコンクリート構造物の初期点検に積極的に展開し、安全性の高いインフラの構築・維持に取り組んでいきます。