株式会社大林組(本社:東京都港区、社長:蓮輪賢治)は、国立大学法人静岡大学(所在地:静岡市駿河区、学長:石井潔)、有人宇宙システム株式会社(本社:東京都千代田区、社長:古藤俊一)と共同で、航空宇宙産業向け先端材料カーボンナノチューブ(以下CNT)の宇宙環境曝露(ばくろ)実験における試験体を回収し、損傷度合いを検証しました。
大林組は、先端材料であるCNTの利用を想定した未来の宇宙インフラ建設構想(宇宙エレベーター建設構想)を発表しており、2015年4月に宇宙曝露環境におけるCNTの耐久性を検証することを目的に実験を開始しました。
この実験は、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下JAXA)の「簡易曝露実験装置(以下ExHAM)(※1)」の利用テーマとして採択されたもので、国際宇宙ステーション(以下ISS)/「きぼう」日本実験棟の船外実験プラットフォームを利用しています。
CNTは、高い軽量性(鉄筋の4分の1~3分の1)、高機械強度(鉄鋼の約20倍の引張強度)、高弾性力、高電流密度耐性(銅の100倍以上)、高熱伝導性(銅の5倍以上)など多くの優れた性質を持つ材料であることから、将来さまざまな用途での活用が検討されています。
宇宙機や航空機の構造体や圧力容器の高強度化・軽量化、高い導電性を活かした自動車の配線材料などへの適用が考えられています。建設用材料としては、鉄筋コンクリート造などにおける鉄筋の代替利用や橋梁を支えるケーブルへの利用が考えられ、柱や梁の断面最小化、構造物の軽量化といった効果が期待できます。
今回の実験では、異なる条件で3種類の試験体を曝露しました。ISS進行方向の前面で1年間曝露したもの、背面で1年間曝露したもの、背面で2年間曝露したものを設定し、2017年7月にすべての試験体の回収が完了しました。
本実験で使用したCNTは高品質で長尺なより糸(撚糸(ねんし))の形状で、直径約20ナノメートル(ナノメートル:10億分の1メートル)の多層カーボンナノチューブ繊維をより合わせたものです。
回収した試験体を電子顕微鏡で確認すると、ISS進行方向の前面で曝露したものが背面で曝露したものよりも大きく損傷していました。ISSが周回する地上400km付近は、地球上の大気が希薄に存在する電離層の熱圏と呼ばれる空間で、酸素などの分子状態が保たれないため、原子ごとに分かれて存在しているといわれています。
確認された損傷は、その原子状の酸素がCNTに衝突して生じたものと考えられ、秒速9kmで進行するISS船外の曝露環境では、ISSの前面にある方が背面よりも損傷しやすい環境であることを確認できました。さらに、背面で曝露期間の違う試験体を比較したところ、損傷の程度にあまり違いがなかったことから、今回の実験では背面での曝露期間の違いは損傷程度に影響が少ないことも判明しました。また、回収した試験体に対して強度試験を実施したところ、前面・背面ともにCNTより糸の引張強度の値が曝露前より低下しており、前面の方がより大きな低下を示しました。
【CNT試験体の回収結果】
【CNTの損傷の様子】
これらの結果は、地上で実施した曝露条件試験と高い相関性を示しており、地上での試験が宇宙の複合環境下での損傷状態を類推するのに有効であることも確認できました。
今後は、回収した試験体に対し、放射光測定による詳細な分析を進め、原子構造レベルでの損傷メカニズムを究明していくとともに、CNTの損傷を抑制するための耐久性向上対策技術を開発していきます。
これからも大林組は、宇宙インフラ建設の実現をめざした先端材料の活用や、それを活かした新技術の開発などに積極的に取り組み、社会の発展に貢献していきます。