株式会社大林組(本社:東京都港区、社長:白石達)は、ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)の達成や環境共生建築の実現に必要な省エネルギー手法に関し、その導入効果をより正確に予測する熱負荷シミュレーションシステム「エコシミュレ」を開発しました。本システムの開発により、環境共生建築の実現に向けた高度な設計と評価が可能になりました。
建築物におけるエネルギー消費量は、わが国の総エネルギー消費量の約3分の1を占め、建築物の省エネルギー化、ZEB化は持続可能な社会を実現していくうえで重要な課題となっています。特に「窓からの熱負荷削減」や「自然エネルギーの利用」は、数ある建築物の省エネルギー手法の中でも効果が高く、ダブルスキン、自然換気、昼光利用などの手法が注目されています。
しかしながら、これまで設計時に用いていた空気調和・衛生工学会方式動的熱負荷計算プログラムNewHASP/ACLD(※1)(以下 NewHASP)では、これらの手法を導入した場合の熱負荷低減効果を精度よく予測することができませんでした。
今回開発した「エコシミュレ」は、窓の質点系伝熱モデル(※2)、換気回路網モデル(※3)、光環境シミュレーションRadianceモデル(※4)(以下 窓、換気、光シミュレーション)など、省エネルギー手法の導入効果を精密かつ詳細にシミュレーションすることができるモデルとNewHASPとを連系させることで、年間を通じた時刻別熱負荷を高精度で予測します。これによりZEBの達成や環境共生建築の実現に向け、より高度な設計および性能評価を可能とします。
「エコシミュレ」の主な特長は以下のとおりです。
- 自動シミュレーション技術により設計業務の効率化・省力化が可能
ダブルスキン、自然換気、昼光利用などの省エネルギー手法の効果を予測するには、窓、換気、光シミュレーションを使用する必要があります。従来、このシミュレーションプログラムに必要な入力データは、高度な専門知識を持つ設計者でなければ作成できず、大きな労力を要する作業でした。
「エコシミュレ」は、NewHASPやBIMが持つ情報を、窓、換気、光シミュレーションプログラムの入力データとして活用し、かつ入力データの作成から最終的な熱負荷シミュレーションまでのフローを自動化したものです。
この自動シミュレーション技術により、設計者自身に専門知識がなくても、システムを稼働するための簡易な操作だけで、複雑なシミュレーションを効率よく行えるようになりました。
なお、ソフトウェアの一部であるRadiance用のドライバと光シミュレーション内のブラインド光特性モデルは、学校法人東京理科大学理工学部建築学科吉澤研究室との共同研究により開発したものです。
- 省エネルギー手法を採用した建物などの空調機器容量の適正化と年間の省エネ効果予測が可能
従来、省エネルギー手法の採用を計画している建物などの熱負荷予測は大きな労力を要するため、年間を通じた時刻別の予測までは行わず、最も気象条件の厳しいピーク日のみを考慮して設計し、各月代表日や夏至・冬至・春秋分の日だけを対象に、採用した場合の効果予測をしていました。この場合、実際の熱負荷を正確に予測できないため、空調機器容量は余裕を見た数値を定めて設計していました。
「エコシミュレ」により、年間の全時刻についての精密な熱負荷シミュレーションが可能となったことから、その結果を用いて適正な空調機器容量を算出することが可能となります。また、適正な能力の設備機器を選定することで導入コストの低減が図れます。さらに、お客様などに対しては、「年間の省エネ効果」の具体的な数値を提示できるとともに、さまざまな性能上のニーズに対応することが可能となりました。
大林組は「エコシミュレ」を活用し、環境共生建築を実現する高度な設計を通じて、持続可能な社会の実現に貢献していくとともに、お客様の多様なニーズに応える設計、施工を追求していきます。