トンネルなどインフラ構造体の維持管理用モニタリングツール「光式AEセンサー」を開発・実用化

波方国家石油ガス備蓄基地ブタン/プロパン兼用貯槽工事に導入し、実証

プレスリリース

株式会社大林組(本社:東京都港区、社長:白石達)は、トンネルなどインフラ構造体の維持管理を対象に長期にわたりモニタリングができる「光式AEセンサー」を株式会社レーザック(本社:東京都文京区、社長:町島祐一)と共同開発しました。

トンネルや大規模地下空洞工事では、発破や掘削によって岩盤は大なり小なり「ゆるみ」と呼ばれる損傷を受けます。掘削完了後、年を経ることで地震や地下水変動、さらには岩盤の微小な変位によって「ゆるみ」が拡大したり、断層などの脆弱(ぜいじゃく)な箇所に力が集中したりすることがあります。その結果、覆工コンクリートに亀裂が生じたり、岩盤崩落を引き起こすことにつながります。

岩盤やコンクリートの損傷範囲状況を面的・立体的に捉える技術としては、アコースティック・エミッション(Acoustic Emission:以下、AE(※1))が知られています。従来のAE計測技術は電気式であるため、高湿度条件下や可燃性ガス噴出環境下での適用が課題となっており、施工から維持管理に至る長期間での適用は困難でした。

今回、センサー素子ならびに信号経路に光ファイバーを利用することで電気を全く利用しない新しいタイプのAEセンサーを開発しました。その結果、高湿度条件下や可燃性ガス噴出環境下など監視が困難な場所でも特別な処置を施すことなくAE計測ができるようになり、長期モニタリングが可能となりました。

さらに、波方国家石油ガス備蓄基地の岩盤健全性モニタリングに「光式AEセンサー」を適用し、その信頼性を確認しました。設置後5年を経過していますが、伝送トラブルなどなく、正常に稼働しています。

 

【山岳トンネルにおける計測イメージ】 山岳トンネルにおける計測イメージ

 

「光式AEセンサー」の特長は以下のとおりです。

  1. 高湿度および可燃性ガス噴出条件下でも計測可能

    湿度が高く、可燃性ガスが噴出するような計測上過酷な条件下でも、センサーとケーブルには通電していないため、特別な処置を講ずることなく測定が可能です。一方、通常の電気式センサーは、水分の影響を受け絶縁抵抗低下により影響を受けます。また、可燃性ガス環境下では通電により爆発の危険性があることから防爆構造をとらなければなりません。

  2. 計測の信頼性・安定性が向上

    通電していないことから、環境雑音である電磁波や雷の影響を受けることはありません。また、光損失は非常に小さいため、増幅装置を付けることなく4kmまでの長距離計測が可能です。

  3. 長期モニタリングが可能

    光が通過する中心のコア部分は石英系ガラス製であり、熱に強く、水や薬品に侵されにくい特長があります。そのため、湿度が高く耐食性が必要な環境下での長期的なモニタリングが可能になります。

大林組は、今回の実績を基に、構造体の健全性モニタリングツール「光式AEセンサー」を、トンネルや橋梁をはじめとする各種インフラ施設を対象とした維持管理や、放射性廃棄物地層処分などの長期モニタリングツールとして積極的に提案・展開し、安全・安心な社会の実現に貢献していきます。

※1 アコースティック・エミッション(Acoustic Emission:AE)
岩石や岩盤をはじめとする固体材料に何らかの外力が作用すると、材料には変形が生じ、その結果微小亀裂が生じることになります。変形の増大とともに発生した微小亀裂は逐次進展し、連結して最終的には破断面を形成する巨視的破壊段階へ至ることになります。変形が生じる過程で、材料内部からは微小破壊音、電磁波、温度が発生することになります。特に、微小破壊音である弾性波動(ほとんどは人間が聞き取れない超音波)が発生する現象を称しています。

「光式AEセンサー」の技術説明
  1. 光ファイバーでAEを検知できるメカニズム

    従来のAEセンサーには、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛:Pb(ZrTi)O3)などの圧電素子が利用されています。この材料に外力が加わると、電気分極を生じ、入力した外力の大きさに対応した電圧が得られることになります。これを圧電効果といいます。

    一方、光ファイバーでは、外力が加わると光ファイバーが伸縮するため通過する光にはドップラー効果による周波数変調が生じます。この周波数変調量を検出し、FV(周波数/電圧)変換することで入力した外力の大きさに対応した電圧が得られることになります。

  2. 光式AEセンサーの形状と寸法

    光式AEセンサーでは、ファイバーの長さが長くなるほど感度も高くなる特性があります。しかし、現場でハンドリング良く使用するためには、大きさ形状を工夫しなければなりません。そこで、センサー形状と寸法を種々モデル化し、FEM(有限要素法:Finite Element Method)による固有値解析と試作品による感度特性実証実験から最適形状を選定しました。その結果、図1に示す積層楕円(だえん)構造が最も感度特性に優れ、かつ低周波領域での検知能力に長けていることが判明しました。受波面にはエポキシ樹脂製拘束具を設置しています。なお、感度特性の向上は、より小さな振動波を逃さないための工夫です。一方、低周波領域での検知能力向上は、原位置でのセンサーレイアウトに係る問題で、より少ないセンサーで広範囲な領域を検知するための工夫になります。

    光ファイバー素線は、直径約150μm程度の石英ガラス製で繊細なため、保護筐体(きょうたい)に内蔵し取り付けることになります。図2は地下岩盤内のボーリング孔に埋設設置した場合の金属筐体で、長期モニタリング可能なように耐気密性と耐水密性を考慮した構造になっています。

 

岩盤内設置用金属筐体例

図2 岩盤内設置用金属筐体例

光AEセンサーの形状と寸法

図1 光AEセンサーの形状と寸法

以上

この件に関するお問い合わせ先
大林組 CSR室広報部広報第一課
TEL 03-5769-1014

プレスリリースに記載している情報は、発表時のものです。