電子地図情報を利用した風環境予測ソフトウエア「Zephyrus」を開発

プレスリリース

大林組は、電子地図情報を利用して、流体計算を含めた風環境をパソコン上で予測できるソフトウエア「Zephyrus(ゼフィルス)」を開発しました。計画建物や周辺建物のモデル化から流体計算、風環境の評価まで、一部の専門家だけでなく、一般の設計者でもパソコン上で一貫して作業できます。

近年、都市再開発に伴い、旧来の市街地に高層建物が計画される例が増えています。計画建物による周辺への影響のうち、ビル風による風環境の変化に対しては、風洞実験、机上検討、流体計算により予測を行っていましたが、風洞実験の場合、予測精度は高いものの、模型製作や実験にコストがかかるため、コスト的に余裕のある物件でないと実施が困難でした。机上検討は、経験者が既往の風洞実験結果から該当する案件に最も建物形状が似た例を探し出し予測を行う方法で、コストはかからないものの予測の精度は実験に比べると劣ります。また、流体計算によるビル風予測の場合、スーパーコンピュータやエンジニアリングワークステーションといった大型のコンピュータを利用しなければならず、限られた専門家だけに委ねられていました。

今回大林組が開発した風環境予測ソフトウエア「Zephyrus」は、一般の設計者でもビル風の予測が行えるように、計画建物や周辺建物のモデル化から流体計算、風環境の評価まで、パソコン上で一貫して作業できます。
ビル風の予測を行う場合、計画建物だけでなく、近隣街区内の建物も取り込んでモデル化を行う必要がありますが、「Zephyrus」は、市販の電子化された住宅地図データを使用し三次元のモデル化を行えるので、作業の簡略化が図れます。必要に応じて建物を削除したり、あるいは建物の形状や高さを修正することも可能です。
次に、流体計算では、上記の三次元モデルをもとにして計算格子を作る必要があります。しかし格子生成は専用のソフトウエアを使っても手間のかかる作業です。そこで「Zephyrus」では、碁盤の目状の直交格子を利用して、格子生成を自動化しました。このとき、異なる格子解像度を持った複数の格子を重ねあわせることで解析精度を高める工夫を行っており、解析領域全体を一つの格子で覆う場合に比べ、必要な箇所だけ細かな格子を用いることができるので、全体の計算時間を減らすことができます。例えば、ユーザーが解析したい領域をマウス操作で指定し、その領域に対する格子解像度を入力します。次にこの指定された領域の中から、より詳しく解析を行いたい領域をマウスで指定し、先ほどより高い格子解像度を指定します。この作業を繰り返すことで、必要とされる予測精度やパソコンの性能に応じた格子生成が可能になります。
さらに、流体計算には、気流が建物から受ける摩擦力や風上から流入してくる風速の分布といった境界条件を入力する必要があります。「Zephyrus」ではそれらの境界条件が自動的に設定されますので、ユーザーは、検討したい風向を指定するだけで流体計算ができます。
市販されている汎用の流体解析ソフトを利用して風環境の予測や評価をする場合、例えば、村上慶応大学教授提案の手法である風環境評価(※1)を行おうとすると、計算結果から必要なデータを取り出す作業、評価式に必要な気象データの取得、評価式による計算といった、流体計算以外の作業やプログラムが必要となります。「Zephyrus」には、風環境の予測や評価に必要な全国の気象データや評価式が既に組込まれているため、通常の風速分布図やベクトル表示が行えるだけでなく、上記の風環境評価を実施し、その結果(ランク値)まで表示できます。また、計画建物建設前後の計算結果をもとに、風速やランクの変化を表示することも可能です。さらに、植栽による防風対策の効果が確認できるように、任意の高さ、直径を持った樹木を置いての計算が可能です。
大林組では昨年夏以来、技術研究所と東京本社の二ヶ所で同ソフトを試用し、12件の実物件に対応しながら機能の追加や改良を重ねてきました。

「Zephyrus」の特徴は次のとおりです。
  1. 市販の電子地図情報を利用して、計画地周辺のモデル化を行えます
    市販の電子地図情報を取り込んで、近隣街区の三次元モデル化を行えるため、作業の簡略化が図れます。また、必要に応じて建物を削除したり、建物の形状や高さを修正することも可能です。

  2. 流体計算を含めた全ての操作をパソコン上で実施できます
    複雑な格子生成の作業と流体計算に必要な境界条件の設定を自動化しているため、一般の設計者が全ての操作をパソコン上で計算できます。

  3. 風環境の予測や評価に必要な機能が含まれています
    「Zephyrus」には風環境の予測や評価に必要な機能が含まれているため、ランク評価や任意の大きさの植栽による防風効果なども確認できます。

今後大林組では、高層建物や市街地での再開発物件に「Zephyrus」を積極的に採用し、ビル風による風環境の変化を低減し、より快適な街作りを進めていきます。

※1 村上慶応大学教授提案の手法である風環境評価とは、一日のうちで最も大きな瞬間風速(日最大瞬間風速)が、目安となる風速を超える日が1年間で何日現れるかで、評価を行うもの。最も風の影響を受けやすい用途(例えばオープンカフェ)に適したランク1から比較的風の影響を受けにくい用途(事務所街)のランク3まで定義されている


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