日本の森林の再生

酒井秀夫

森林の再生と林業の担い手

そもそも森林は、その公益的機能から国民総有のものでもあり、林業は伐ったら植えるというのが基本である。植えなくても萌芽更新(伐採後の伐り株から発生した萌芽を成長させて次代の林を育てる方法)とか、天然更新を前提とした択伐があるが、それなりの手間を掛ける必要がある。苗木を植えたら、目標とする木の大きさになるまで間伐を繰り返し、その際に発生する間伐材の収入で経営を続けていくことを想定しなければ、現状のような放置人工林を発生させるという二の舞を演じてしまう。荒廃してしまった森林は改植してリセットしていくことも必要である。林業なくして今の日本の森林の再生はありえない。

そして、もうひとつの日本の林業の課題は、林業の担い手の確保と育成である。1960(昭和35)年には24.7万人の林業従事者がいて、林業、製炭はいい現金収入となった。しかし2015(平成27)年には、5万人をきっている。国は木材自給率5割を目指している。年間の伐採量を4,000万m3とすると、林業従事者は、単純に計算して今よりも2万人は増やして維持する必要がある。4,000万m3伐れば、年間8万haの植林が必要になり(※5)、苗木も2.8億本は必要となる。伐る人も減っているが、植える人はさらに激減している。日本の林業のビジネス化に向けて、何をどう取り組んだらよいのであろうか。

森林の再生と林業の担い手

そもそも森林は、その公益的機能から国民総有のものでもあり、林業は伐ったら植えるというのが基本である。植えなくても萌芽更新(伐採後の伐り株から発生した萌芽を成長させて次代の林を育てる方法)とか、天然更新を前提とした択伐があるが、それなりの手間を掛ける必要がある。苗木を植えたら、目標とする木の大きさになるまで間伐を繰り返し、その際に発生する間伐材の収入で経営を続けていくことを想定しなければ、現状のような放置人工林を発生させるという二の舞を演じてしまう。荒廃してしまった森林は改植してリセットしていくことも必要である。林業なくして今の日本の森林の再生はありえない。

そして、もうひとつの日本の林業の課題は、林業の担い手の確保と育成である。1960(昭和35)年には24.7万人の林業従事者がいて、林業、製炭はいい現金収入となった。しかし2015(平成27)年には、5万人をきっている。国は木材自給率5割を目指している。年間の伐採量を4,000万m3とすると、林業従事者は、単純に計算して今よりも2万人は増やして維持する必要がある。4,000万m3伐れば、年間8万haの植林が必要になり(※5)、苗木も2.8億本は必要となる。伐る人も減っているが、植える人はさらに激減している。日本の林業のビジネス化に向けて、何をどう取り組んだらよいのであろうか。

林業の生産性

ニューヨークの2001(平成13)年の9.11事件以降、スマホが普及し、テレビも地デジ放送になった。しかし、林業の作業システムは、いまだにその当時と同じである。例えば伐木方法は、人類誕生以来、石斧、鉄斧、チェーンソー、ハーベスタと発展してきたが、その生産性を見積もると、1:4:400:6,000~8,000である。チェーンソーとハーベスタの比は1:15~20であるが、それでも他産業に比して向上したとは言えない。まだまだ作業システムのイノベーションが必要である。

伐木、造材、集材、輸送を今まで森林組合や素材生産業者など1つの事業体が一貫して担っていたが、これからは、各工程の主体の明確化と専門性を高めていく必要がある。例えば、高度な技術を要する伐倒は、高い技能を持った人が行い、丸太にする玉切りは、あらかじめプロセッサ(枝払い・玉切り機)に採材方針をセットしておき、女性などが安全な場所で行う。IT管理されたトラックが、需要家が求めている製品を運搬する。工程管理されたこれらの柔軟な作業システムは、多くの雇用機会を生み、ワークライフバランスの実現を可能にする。1本の木に多くの人が関わることになるので、事業量の増大、雇用の創出とワークシェア、ひいては需給のマッチングが可能になる。

しかしサプライチェーンマネジメントとしてこれらの工程を統合管理するためには、組織を越えたコーディネーターと、川上、川下の利害関係者のプラットフォームが必要である。そしてICT技術が有用なツールとなり、木材の流通化に向けて新たなチャレンジが必要となる。ただし、最終的にはオペレーターの技量とモチベーションが大事になってくる。そのための林業全体の人材確保と育成に向けたサポート体制が必要である。

サプライチェーンの構築にとって、内外の需要を開拓し、売り先の確保は不可欠であるが、一方で地域林業形態の確立が必要である。いま日本中でこのことが課題となっている。森林のゾーニングをどうするか、伐期は何年にするのか、伐ったら何を植えるのか、製品として何をどこに売るのか、というような長期戦略が必要である。この長期戦略を実現するためには、森林所有者の境界の明確化が必要である。不明森林所有者をこれ以上増やすことはできないところまできている。

酒井秀夫(東京大学名誉教授、日本木質バイオマスエネルギー協会会長)

1952年茨城県生まれ。東京大学農学部林学科卒。農学博士。東京大学農学部助手、宇都宮大学農学部助教授、東京大学農学部助教授を経て、2001年に東京大学大学院農学生命科学研究科教授に就任、現在に至る。研究テーマは、持続的森林経営における森林作業、林内路網計画、森林バイオマス資源の収穫利用など。

この記事が掲載されている冊子

No.58「森林」

現在では、わが国伝統の材料である木材を、高度な集成木材(エンジニアリングウッド)のみならず、鋼鉄より軽くて強い植物繊維由来の素材であるセルロースナノファイバーなど、最先端材料に変貌させることができるようになってきました。国土の約7割が森林に覆われ、木材という豊富な資源を持つ日本で、私たちは森林とどのように向き合っていけばよいのでしょうか。
本号では「森林」の現状を解明するとともに、この豊かな資源の活用をあらためて考察しました。
(2017年発行)

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